当時は「ブラック企業」なんて言葉はなかった
当時はブラック企業なんて言葉はなかった
新入社員研修での人事担当課長のひと言が全てを物語っていた
僕が大学を卒業したのは1998年の9月30日
大学5年の時、単位が1単位だけ足りなくて半期だけ留年したためにこんな中途半端な時期になった。そして就職が1998年10月1日。
同じ年に就職した同期入社の仲間が本当なら100名弱いたのだが、入社が半年遅れたため入社式も新入社員研修も2人で受けた。そう、僕の他にもうっかりさんがもう1人いた。
この2人で受けた新入社員研修の際、僕は講師だった若い人事担当の女性課長の言葉に耳を疑った。
それは研修最終日の午後、就業規則の説明の時間ことだった。
「……有給休暇は入社後6ヶ月が経過、なおかつ全労働日数の8割以上出勤した場合、10日の有給休暇が支給されます……」
「まぁ、一応規定ではこうなっていますが病気の時以外は有給は取れないものと思って下さい。」
当時から生意気だった僕は、人事担当課長のこの言葉をスルーすることが出来なかった。
「いやちょっと待って下さい。有給休暇は会社が従業員に与えるものじゃないんですよ。これは国が定めている労働基準法により労働者に認められている権利です。課長にそのような発言をする権限はないはずですよ?」
この時、人事担当の課長の表情がこわ張った。
若くて美人なキャリアウーマンだったがピクンッ!と眉をひそめる音が聞こえてきそうだった。
新入社員にこのようなモノの言われようをされたら腹も立つだろう。
そして僕の言っていることが正論なため言い返すことが出来ず余計に腹が立ったのだろう。
「そうですね、大石クンのいう通りです。失礼いたしました」
3人しかいない研修室の空凍りついていた。
やばいと思った僕は咄嗟に答えた
「いえ、課長。僕こそ新入社員の分際で失礼なことを言ってしまいすみませんでした」
当時はブラック企業などという言葉はなかったが、ほとんどの中小企業は僕が勤めていた会社と同等か、それ以下の遵法意識しかなかったと思う。
労働時間は毎日12時間以上
僕が勤めていた会社は地方百貨店
営業時間は午前10時から午後の7時までだった。
しかし午前10時に店を開けようと思ったら従業員はそれより早く来なければならない。僕の会社では出勤時間は9時10分と定められていた。
しかし出勤時間が9時10分と定められていて9時10分に出社すると間違いなく嫌味を言われる。いくらか早く来ないといけない。
「いくらか早く」って何分?5分?10分?これには明確な規定がない。僕は嫌味を言われるのが耐えられないので30分は早く出社していた。
そして今度は退社時間だが、午後7時まで店を営業していた場合、従業員は勿論7時には帰れない。
お客様を見送ってからレジを閉めたり後片づけをしたりと閉店後にやらなければならないことは結構ある。
退社の定時は午後7時40分と定めれらていたがその時間に帰れることはほとんどない。
特に男性社員の場合は9時10時まで残業することは珍しくなく、1日の労働時間は12時間をゆうに超えた。
ちなみに店の営業時間が午前10時から午後7時だったので、シフト勤務制が導入されていた。
女性社員や契約社員はシフト通りの勤務をしていたのだが、男性社員は「シフト勤務なんてもってのほか」という空気があり僕も毎日毎日シフト無視の開店から閉店までの通し勤務をしていた。
男性社員がシフトを無視して通し勤務をした場合の時間外手当はみんな申請しないというクソみたいな不文律も存在していた。
「なんで誰もこのことを問題にしないんだ?」
間違ってもそんなことは口に出来ない空気が僕の会社の中には流れていた。